Vol.1 心筋炎による心原性ショックを契機に診断 Vol.1 心筋炎による心原性ショックを契機に診断
紹介した症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様の結果を示すわけではありません。

心筋炎による心原性ショックを契機に診断し得たEGPAの一例

聖路加国際病院
Immuno-Rheumatology Center
岡田正人 先生
血管炎は膠原病関連疾患の中でも、虚血性、出血性などの不可逆的な臓器障害が比較的急速に起こるリスクの高い疾患群です。当科で血管炎疑いの症例を診療させて頂く場合には、治療をできるだけ早く開始すること、それぞれの薬剤の特徴を踏まえて治療効果判定を速やかに行い必要に応じて治療内容の変更を迅速に行うこと、そして緊急の初期治療を行った後でも、できるだけ早くどの血管炎なのかの確定診断を速やかに行えるように検査を進めておくことに留意しています。
当科では2017年9月より血管炎部門をセンター内に立ち上げ、米国で唯一の血管炎専門フェローシップ(クリーブランドクリニック)を日本人ではじめて終了した田巻弘道医師を中心にさらに高度な診療を行っていくこととなっています。田巻医師は聖路加国際病院で初期および膠原病の研修後、米国に臨床留学し、内科、リウマチ膠原病科、そして血管炎の臨床研修を終えて帰国しました。当科は米国のリウマチ膠原病科医が3人となり、小児リウマチ専門医、リウマチ膠原病の東洋医学専門医も含めたチームで、今後も日本、米国、欧州の長所を取り入れた診療を行っていきます。

2017年4月の日本リウマチ学会において発表された「心筋炎による心原性ショックを契機に診断し得たEGPAの一例」について、その診断と治療の詳細を聖路加国際病院 岡田正人 先生に詳細をうかがいました。

【症例】70歳代後半、女性 【既往歴】気管支喘息(20年前に診断)
来院2週間前に右上下肢の筋力低下を呈し、近医を受診、頭部MRIにて脳梗塞と診断された。入院時白血球19,000/μL、好酸球増多69%(13,500/μL)を認めた。来院当日精査目的に他院へ転院搬送中に胸痛を訴え、血圧80/65mmHgまで低下、当院循環器内科へ救急搬送となった。来院時心原性ショック状態であり、急性冠症候群や心筋炎を疑い緊急冠動脈造影と心筋生検を行ったが、冠動脈病変を認めなかった。 大動脈バルーンパンピング補助下でICU入室となり、当科コンサルトとなった。好酸球増多と心筋炎から好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)を疑いステロイド投与を開始した。MPO-ANCA、PR3-ANCAは陰性、下肢神経伝導速度検査で多発単神経炎あり、MRIで右副鼻腔炎を認めた。心筋病理では線維化、顆粒球、好酸球の浸潤を一部伴う心筋炎との結果であり、EGPAによる心筋炎と診断した。治療翌日より好酸球は40/μlへ低下、治療10日時点 で心機能はEF10%から40%へ改善した。経過中下肢神経障害の進行がみられたため、大量γグロブリン療法を0.4g/kg/day 5日間施行した。

本例は重篤な心筋炎(劇症型)の合併があり、EGPAの中でも比較的珍しいケースでした。こうした症例に対する治療法は確立されていません。そこで好酸球増多を伴う劇症型心筋炎でEGPAを疑うべき教訓例と考え報告することとしました。

画像所見

【胸部X線検査】両側胸水あり、心胸郭比68%、右中下肺優位に浸潤影
【心電図】左軸偏移とV4,5,6にて軽度のST低下
【心臓超音波検査】EF15% びまん壁運動低下
【冠動脈造影検査】冠動脈に有意狭窄所見なし
【針筋電図】多発単神経炎の所見
運動神経では正中、尺骨、脛骨神経のCMAPで振幅低下 感覚神経では正中神経、腓腹神経のSNAP振幅低下
【心筋生検】検体不良でわずかな好酸球の浸潤のみ確認された
【心筋MRI】血管支配に関係なく左室全周性に内膜下に浮腫性変化/遅延造影あり(下図)


  • 来院2週間後


  • 来院8週間後

血液検査所見
EGPAと診断した経過
本例は膠原病の診断がついていなかったため、一番強く現れた症状(心機能低下)で当院循環器内科に救急搬送されました。ICUで心機能が急激に低下した原因について調べたところ、膠原病が疑われ当科にコンサルトがありました。
膠原病を疑った理由は好酸球増多でした。急に心筋炎を発症するということはウイルス感染なども考えられますが、そういった所見は見られませんでした。心筋炎があって好酸球増多が見られる場合、血液疾患か膠原病のいずれかである可能性が高いことから、その両方から診断していくことが良いアプローチだと思います。また、本例は気管支喘息の既往があり、末梢神経障害(下肢筋力低下)を発症していたことから典型的なEGPA例と考えられました。
初期治療(寛解導入療法)
重症のEGPA例にはスタンダードな治療を最初に施行することが非常に大切です。本例ではメチルプレドニゾロン(mPSL) 1mg/kg(60mg/日)の投与を開始し、反応が十分でなかったためパルス療法も行いました。ステロイドを使用する理由は効果発現が非常に早いということで、初期に十分量を投与して寛解導入を図ります。免疫抑制剤は多くの場合、効果の発現に時間がかかること、および心毒性のリスクを避けるため、今回はシクロホスファミドを初期治療として使用しませんでした。
EGPA Clinical Message

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