Vol.4 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の早期診断と治療 Vol.4 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の早期診断と治療

好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の早期診断と治療(2022年8月19日WEB開催)

座長:埼玉医科大学総合医療センター リウマチ・膠原病内科 教授 天野 宏一 先生
演者:国立病院機構横浜医療センター 呼吸器内科 部長 釣木澤 尚実 先生

好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)は、顕微鏡的多発血管炎(MPA)、多発血管炎性肉芽腫症(GPA)とともに抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎に分類される全身性壊死性血管炎です。本WEB講演会では、呼吸器内科医としてEGPAの喘息期から多数の診療に携わり、免疫学的な視点で数多くの基礎研究にも取り組んでおられる国立病院機構横浜医療センター 呼吸器内科 部長 釣木澤 尚実先生に、早期診断のポイントやEGPAの免疫学的側面についてご解説いただきました。
EGPAの疫学と診断基準
本邦における2009年の全国調査ではEGPAによる医療施設受診者は約1,900例、人口100万人あたりの有病率は17.8人年と推定されています1)。民間の安全性調査データベースを利用したMartinらの報告によると、100万人年あたりのEGPA有病率は一般人口で6.8人年、非喘息患者で1.8人年に対し、喘息患者では64.4人年と、EGPAはやはり喘息に関連した疾患であるといえます2)
日本では旧厚生省の難治性血管炎分科会による診断基準(1998年)が現在でも使用されています3)。主要臨床所見は、先行する気管支喘息あるいはアレルギー性鼻炎、好酸球増多と、これに続いて発症する血管炎による症状で、EGPAではMPO-ANCA陽性率は必ずしも高くないことを反映して、「MPO-ANCA陽性」が参考所見にとどめられている点が特徴の一つです。実際、EGPAにおけるMPO-ANCA陽性率は欧州の報告では3~4割で、陽性例では紫斑、組織での血管炎、腎病変が多く、陰性例では心病変が多いことが特徴です 4,5)
EGPA早期診断の手がかり-EGPA喘息期の特徴と血管炎の先行症状-
血管炎発症前のいわゆる喘息期から経過を追跡できたEGPA 24例を後ろ向きに解析したわれわれの検討では6)、EGPA喘息期の特徴として喘息初診時には87.5%と大部分が重症喘息(GINA step4)であることのほか、一般喘息との違いがいくつか確認されています(表1)。こうした一般喘息との違いは、おそらく血管炎の一つの症状として喘息が発症しているためと推察しています。
(表1)EGPA喘息期の特徴
  • 大部分が重症喘息
  • 一般喘息重症例と比較して
    経口ステロイド内服率、挿管歴、副鼻腔炎および好酸球性肺炎の合併率が高い
  • 喘息初診時から末梢血好酸球数が多い
    (末梢血好酸球数20%以上がEGPA発症のリスクファクター)
  • 気道閉塞障害は一般喘息重症例と同程度
  • 気道過敏性は一般喘息軽症例に近い

文献6)を元に作成

また、EGPA154症例を対象とした先行症状に関する検討では(Tsurikisawa N, et al. Unpublished data)、EGPAの半数に先行症状を認め、その内訳は好酸球性肺炎が約6割と最も多く、消化器症状、皮疹なども認めます。先行症状出現時からEGPA診断時までの平均期間は12.6ヵ月でしたが、早いケースでは2~3ヶ月以内、長い場合には3年というケースも経験していますので、この間、前述の喘息期の特徴なども踏まえながら丁寧に患者さんを診察することで、早期発見につながると考えています。
EGPAを疑った場合のアプローチ
末梢神経障害に対しては質問票の利用、消化管病変、心病変については症状が認められない場合にも必要に応じて検査を行うことでEGPAの的確な診断に近づくことができます。
①末梢神経障害
EGPAを疑った場合には神経障害の証明が非常に重要です。初発症状の特徴としては7)、グローブストッキング型の四肢末梢のしびれ、疼痛などで、これは末梢神経の方向に沿って末梢に向かって放散します。特に、神経症状は時間的、空間的に加算される形で亜急性に完成され、朝は歩行可能だったが、昼から動けなくなり、夕方寝たきりにというケースもあるかと思います。また、神経障害の診断には、運動障害と感覚障害を患者さん自身が評価する質問票(図1)などを参考にしていただくことも有用です。この質問票を使った運動障害スコアが免疫グロブリン大量静注療法(IVIG)によって改善すること、またバリデーションとして徒手筋力テスト(MMT)と正の相関を示すことを確認しています8)
(図1) EGPA運動機能・しびれの評価票

ANCA関連血管炎.comよりダウンロード可能

②消化管病変
腹痛、下痢、嘔吐などの消化管症状を呈するケース(59例)では9割近くが内視鏡所見も陽性となりますが、消化管症状を認めない場合にも約6割で内視鏡所見が陽性となるため(Tsurikisawa N, et al. Unpublished data)、注意が必要です。潰瘍だけでなく、暗赤色の小発赤もEGPAに特徴的な内視鏡所見であり、周辺を生検すると好酸球浸潤を認めることが多くあります。一方で、消化管症状や内視鏡所見がない場合にも生検で好酸球浸潤や浮腫が確認されるケースがあり、疑わしい場合には生検を行うことで診断がつくこともあります。一般の好酸球性胃腸炎の病理所見と、EGPAの大腸病理所見との違いとしては、EGPAの大腸では粘膜下層の好酸球数は同程度ですが、腺窩と腺窩の距離が広い、すなわち浮腫の所見が強いことがあげられます9)
③心病変
典型的な症状は胸痛ですが、背部痛も心病変の症状の一つで、決して見逃してはいけない症状です。有症状の場合には何らかの検査所見で陽性になることが多く、見落とすことはありませんが、われわれの検討では自覚症状がない場合(35例)にも軽症例まで含めると約7割に心病変を認め(Tsurikisawa N, et al. Unpublished data)、同様に自覚症状や心電図異常がないEGPA患者(30例)の53%に心病変を認めたことがオランダから報告されています10)。心病変は予後を規定する重要な臓器病変であるため、症状がなくても調べることが肝要です。
海外では造影MRIが汎用されていますが、日本では喘息患者に対する造影剤投与は原則禁忌であることから、メタヨードベンジルグアニジン(MIBG)心筋シンチが有用です。MIBG心筋シンチは心筋の交感神経活性が心筋/縦隔比(H/M)で表わされます。EGPAにおいては早期H/M 2.18以下もしくはBNP 2.18超で心イベント発症率が高くなることが報告されており11)、 MIBG心筋シンチの実施により予後予測が可能となります。
EGPAの理解を深めるために-EGPAの基礎研究-
①発症、寛解に関する制御性T細胞、Th17細胞
喘息に合併する慢性好酸球性肺炎(CEP)はEGPAの前段階ともとらえられますので慎重に確認を進めますが、多くはEGPAを発症しません。IL-10産生CD4CD25T細胞の制御性T細胞(Treg)の数は、CEP合併喘息患者ではCEP発症時に維持されているのに対し、EGPA患者ではEGPA発症時や再燃時には極めて少なく(図2)12)、TregがEGPAの発症・寛解に大きく関与していることが推察されます。
また、血管炎への関与が示唆されるTh17細胞については、末梢血中のTh17細胞数と好酸球性大腸炎の病理組織の各指標(粘膜下好酸球数、腺窩-腺窩間および基底膜-腺窩の距離)に正の相関が示されており9)、血液を調べることで大腸の様子をある程度推察できることもわかってきています。
(図2)慢性好酸球性肺炎(CEP)合併喘息とEGPAにおけるTreg細胞数の比較
②頻回再燃例におけるB細胞の機能異常
2年に1回以上の頻回再燃群(19例)と、2年に1回未満の稀少再燃群(26例)における検討では13)、B細胞のアポトーシス誘導蛋白であるCD95を発現するB細胞数が頻回再燃群で多く、頻回再燃群ではB細胞が枯渇します。また、稀少再燃群ではステロイド投与量が多い場合には血清IgG量が低下するもののステロイド減量により血清IgG量が増加、つまりIgG産生能が回復するのに対し、頻回再燃群はステロイド投与量にかかわりなくIgG量が少ない状態が維持されることが示されており、頻回再燃群ではIgGを産生する免疫能の低下が推測されます。
③樹状細胞の分化誘導異常
EGPAにおける樹状細胞分化誘導経路を再現した検討では14)、ステロイド投与前には未熟な樹状細胞(CD206樹状細胞)が多く、寛解誘導後には成熟樹状細胞(CD83樹状細胞)が多く誘導されることが観察されました。また、CD206樹状細胞数とCD83樹状細胞数には負の相関、CD83樹状細胞数とTreg数には正の相関が確認されており、治療により樹状細胞の成熟度が増すことでTreg数が増加することが示唆されます。
④自然免疫の関与
血管炎への自然免疫の関与については今のところ十分にわかっていませんが、2型自然リンパ球(ILC2)数はEGPA発症時に最も多くなり、ILC2活性化サイトカインであるIL-33の血清中濃度はEGPA再発時に最も高くなることが示されており15)、EGPAへの関与がうかがわれます。一方、ILC2数およびthymic stromal lymphopoietin(TSLP)は末梢血好酸球数と正の相関を示すのに対して、血清中IL-33濃度と末梢血好酸球数には相関が認められませんでした15)。IL-33は好酸球とは関連がないこと、また血管内皮に発現していることを鑑みると、IL-33は血管炎の病態を示す指標の可能性があると考えています。
参考文献
1) Sada KE, et al. Mod Rheumatol. 2014; 24: 640-644.
2) Martin RM, et al. Pharmacoepidemiol Drug Saf. 1999; 8: 179-189.
3) 尾崎承一, 他(編)ANCA関連血管炎の診療ガイドライン. 厚生労働省難治疾患克服研究事業. 2011(https://minds.jcqhc.or.jp/docs/minds/ANCA/anca.pdf
4) Sinico RA, et al. Arthritis Rheum. 2005; 52: 2926-235.
5) Sablé-Fourtassou R, et al. Ann Intern Med. 2005; 143: 632-638.
6) Tsurikisawa N, et al. Allergy Asthma Proc. 2007; 28: 336-343.
7) 祖父江元ほか. 臨床神経学. 1989; 29: 40-48.
8) 植木有理子ほか,アレルギー.2019:68;857-868.
9) Tsurikisawa N, et al. BMC Immunol. 2015; 16: 75.
10) Hazebroek HR, et al. Int J Cardiol. 2015; 199: 170-179.
11) Horiguchi Y, et al. Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2011; 38: 221-229.
12) Tsurikisawa N, et al. J Allergy Clin Immunol. 2008; 122: 610-616.
13) Tsurikisawa N, et al. J Clin Immunol. 2013; 33: 965-976.
14) Tsurikisawa N, et al. BMC Immunol. 2014; 15: 32.
15) Tsurikisawa N, et al. Clin Exp Allergy. 2018; 48: 1305-1316.
EGPA Clinical Message

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