顕微鏡的多発血管炎(MPA)

顕微鏡的多発血管炎(MPA)

疾患の概念

顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis: MPA)は、全身の炎症症状に伴って、諸臓器に分布する小血管(細小動静脈や毛細血管)の血管壁が炎症を起こし、血栓を形成したり、出血したりするため、傷害血管の灌流組織が虚血・壊死を来たす。おもに腎・肺の2臓器病変で特徴づけられる全身性血管炎症候群である。好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)、多発血管炎性肉芽腫症(GPA)と比較して、MPAでは肉芽腫形成がない。約80%でANCAが陽性であり、特にMPO-ANCA陽性例が多い。
 PANとMPAの特徴を表12に示す。

疫学

  • 年間発症率はドイツにおける3人/百万人から英国における8.4人/百万人と報告されている。わが国での発症率や有病率は不明であるが、欧米に比較して多いと考えられている。
  • 好発年齢:55歳代~74歳代の高齢者に多い。
  • 男女比:ほぼ1:1

臨床症状

急速進行性・壊死性の糸球体腎炎と間質性肺炎・肺出血(肺腎症候群)が特徴である。他にあらゆる臓器の小血管の壊死性血管炎による症状を起こし、紫斑、皮下出血、多発性単神経炎が認められる。臨床的には腎病変は典型的な急速進行性糸球体腎炎(RPGN)であり、肺病変では肺出血・間質性肺炎が高頻度にみられる。

組織所見

  • 確定診断には生検が必要であり、皮膚を含めた生検可能な臓器による早期の病理診断が重要となる。
  • 毛細血管や細動脈・細静脈の壊死、血管周囲の炎症性細胞浸潤を認め、血管壁への免疫複合体の沈着がないか乏しい。肉芽腫性病変を欠く。
  • 腎・肺が好発部位。

診断と病型分類

  • 全身症状とともに血管炎による臓器障害が見られた場合、本症を疑い、傷害組織の生検を行う。免疫複合体に乏しい壊死性血管炎を証明する。腎生検が困難な場合は、病変のある皮膚、腓腹神経、筋、肺などを対象として生検を行う。
  • ANCAの測定が早期診断に有用であるが、重篤な副作用の危険が高い薬物療法を長期間行う現行の治療法を考慮すると、鑑別診断とともに生検組織診断による確定診断を行うことが推奨される。
  • 厚生省によるMPAの診断基準を表13に示す。
  • MPAは予後予測および治療に役立つように病型分類されている(表14)。全身性血管炎型、肺腎型、急速進行性糸球体腎炎(RPGN)型は重症例として分類され、さらにこれらの病型のなかで、病態から予後不良な場合を最重症例として分類される。
  • RPGNの予後改善のためには早期発見と早期治療が重要であることから、2010年に腎疾患を専門としない一般医家向けの早期発見のための診断指針(表15)と腎疾患専門医療機関向けの確定診断指針(表16)が示されている。
表12 結節性多発動脈炎(PAN)と顕微鏡的多発血管炎(MPA)の特徴
特徴 結節性多発動脈炎 顕微鏡的多発血管炎
病理所見
 血管炎のタイプ
 侵襲血管のサイズ

壊死性動脈炎
中・小筋型動脈
ときに小動脈

壊死性血管炎
小血管(毛細血管、細動静脈)
ときに小動脈
臨床所見
 急速進行性腎炎
 高血圧
 肺出血
 間質性肺炎
 再発
 MPO-ANCA
 動脈造影の異常所見
 確定診断

まれ
多い
まれ
まれ
まれ
陰性
あり(小動脈瘤、狭窄)
動脈造影または生検

多い
まれ
多い
あり
あり
陽性
なし
生検
(厚生省特定疾患自己免疫疾患調査研究班:難治性血管炎分科会,1998 より引用,改変)
表13 顕微鏡的多発血管炎(MPA)の診断基準
主要症候
  • 急速進行性糸球体腎炎(RPGN)
  • 肺胞出血もしくは間質性肺炎
  • 腎・肺以外の臓器症状:紫斑、皮下出血、消化管出血、多発性単神経炎など
主要組織所見 細動脈・毛細血管・後毛細血管細静脈の壊死、血管周囲の炎症性細胞浸潤
主要検査所見
  • MPO-ANCA陽性
  • CRP陽性
  • 蛋白尿・血尿、BUN、血清クレアチニン値の上昇
  • 胸部X線所見:浸潤陰影(肺胞出血)、間質性肺炎
判定基準
  • 確実(definite)
    • 主要症候2項目以上と、組織所見の存在する例
    • 主要症候の(1)および(2)を含め2項目以上を満たし、MPO-ANCAが陽性の例
  • 疑い(probable)
    • 主要症候の3項目を満たす例
    • 主要症候のうち1項目とMPO-ANCA陽性の例
鑑別診断
  • 結節性多発動脈炎
  • 多発血管炎性肉芽腫症(GPA)
  • 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)
  • 川崎病血管炎
  • 膠原病(SLE、RAなど)
  • 紫斑病血管炎
参考事項
  • 主要症候の出現する1~2週間前に先行感染(多くは上気道感染)を認める例が多い。
  • 主要症候(1)、(2)は約半数例で同時に、その他の例ではいずれか一方が先行する。
  • 多くの例でMPO-ANCAの力価は疾患活動性と並行して変動する。
  • 治療を早期に中止すると、再発する例がある。
  • 鑑別診断の諸疾患は壊死性血管炎を呈するが、特徴的な症候と検査所見から鑑別できる。
(厚生省難治性血管炎分科会平成10年度研究報告書.p241,1999より改変)
表14 顕微鏡的多発血管炎(MPA)の病型分類
重症例
  • 全身性血管炎型:3臓器以上の障害
  • 肺腎型:限局性肺出血または広範囲間質性肺炎と腎炎を合併
  • RPGN型:血清クレアチニン値が1ヵ月に2倍以上に増加する急速進行性糸球体腎炎
最重症例
  • 急速進行性糸球体腎炎でクレアチニン値 5mg/dL以上
  • びまん性肺胞出血
  • 脳出血
  • 抗基底膜抗体(抗GBM抗体)併存急速進行性糸球体腎炎
  • 急性膵炎
  • 消化管穿孔
軽症例
  • 腎限局型(急速進行性糸球体腎炎型を除く)
  • 肺線維症型(肺出血型は除く)
  • その他の型
    • 筋・関節型
    • 軽症全身型
    • 末梢神経炎型
(厚生省特定疾患自己免疫疾患調査研究班:難治性血管炎分科会,1998 より引用,改変)
表15 早期発見のためのRPGN診断指針
(1) 尿所見異常(主として血尿や蛋白尿,円柱尿)a)
(2) eGFR<60mL/分/1.73m2 b)
(3) CRP高値や赤沈促進
上記の(1)~(3)を認める場合,「RPGNの疑い」として腎専門病院への受診を勧める.ただし,腎臓超音波検査を実施可能な施設では,腎皮質の萎縮がないことを確認する.なお,急性感染症の合併,慢性腎炎に伴う緩徐な腎機能障害が疑われる場合には,1~2週間以内に血清Cr値を再検し,eGFRを再計算する.
  • 近年,健診などによる無症候性検尿異常を契機に発見される症例が増加している.最近出現した検尿異常については,腎機能が正常であってもRPGNの可能性を念頭に置く必要がある
  • 推算糸球体濾過率(estimated glomerular filtration rate; eGFR)計算は,わが国のeGFR式である下式を用いる.
    eGFR(mL/分/1.73m2)=194×Cre-1.094×Age-0.287
    (女性はこれに×0.739)
ただし,血清Crの測定は酵素法で行うこと
表16 RPGN確定診断指針
(1) 数週~数カ月の経過で急速に腎不全が進行する (病歴の聴取,過去の検診,その他の腎機能データを確認する)
(2) 血尿(多くは顕微鏡的血尿,まれに肉学的血尿),蛋白尿,赤血球円柱,顆粒円柱などの腎炎性尿所見を認める
(3) 過去の検査歴などがない場合や来院時無尿状態で尿所見が得られない場合は,臨床症候や腎臓超音波検査,CTなどにより,腎のサイズ,腎皮質の厚さ,皮髄境界,尿路閉塞などのチェックにより,慢性腎不全との鑑別を含めて,総合的に判断する
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