ANCA関連血管炎の治療

ANCA関連血管炎の治療

わが国のANCA関連血管炎の標準的治療

【わが国で行われてきたANCA関連血管炎の標準的治療】
  • 日本におけるANCA関連血管炎の標準的治療は、厚生労働省難治性血管炎に関する調査研究班のプロトコールに準じて行われてきた。
  • 治療プロトコールは重症例、最重症例、軽症例で異なる。
  • 重症例では、大量ステロイド薬+シクロホスファミド(CY)の併用療法が基本であり、最重症例ではこれに血漿交換療法が加わる。

JMAAVプロトコール

【JMAAV試験】
  • 上記プロトコールの有用性を検証し、エビデンスに基づく日本におけるANCA関連血管炎の治療法の確立のために、厚生労働省の研究班を中心にして多施設共同前向き臨床研究(略称:JMAAV)が2004年7月に開始され、2008年3月に終了した。
  • JMAAVの解析結果、寛解率は89.4%という結果が得られた。
【重症分類】
  • 登録患者を表4の基準に従い、重症例、最重症例、軽症例に層別化した。
  • その際に表5を用いて臓器障害の有無を判定した。
表4 重症度分類
分類 病型 備考
重症例 全身性血管炎型
肺腎型
RPGN型
3臓器以上の障害
限局性肺出血または広範囲間質性肺炎と腎炎の合併
血清Cr値が1ヵ月以内に2倍以上に増加
最重症例 びまん性肺出血型
腸管穿孔型
膵炎型
脳出血型
抗基底膜抗体併存陽性例
重症例の治療抵抗性症例
軽症例 腎限局型
肺線維症型
その他型

RPGN型は除外
肺出血型は除外
筋・関節型,軽症全身型,
末梢神経炎型など
臓器障害の定義は表5を参照のこと
表5 臓器障害の定義
臓器障害の種類 定義および解説
(a)限局性肺出血 両側肺野の30%以下の肺出血陰影
(b)広範囲間質性肺炎 PaO2 60 Torr以下の呼吸不全を伴わず,両側肺野の30%以上の罹患面積を示す間質性肺炎
(c)腎炎 臨床的に血清Cr値の上昇,CCrの低下を急速に示し,血尿/蛋白尿を認めるRPGN,または腎生検にて50%以上の広がりをもつ壊死性半月体形成性腎炎。MPO-ANCA陽性の症例は高齢者に多いことを考えると,従来のRPGNの定義(数週間~数ヵ月の間に腎不全に至る症例)では不十分と考える.すなわち,高齢者で元来腎硬化症などを有している症例で,脱水などの要素が加わると,3ヵ月間で血清Cr値が2倍以上になることがある.したがって,血清Cr値が1ヵ月以内に2倍以上に増加する腎炎症例と定義した
(d)心障害 新しい心筋梗塞,心膜炎,心筋炎などの存在を裏づける所見
(e)神経障害 新しい脳出血・梗塞,多発性単神経炎,器質性意識障害などの存在
(f)消化器 下血または便潜血強陽性を呈する,または膵臓壊死・肝機能異常を示す所見
(g)皮膚病変 多発性の紫斑,または皮膚潰瘍の存在
(h)耳鼻咽頭 急性中耳炎/内耳炎,出血性鼻炎,強膜炎/ブドウ膜炎/網膜炎/視神経炎など
(a)~(h)の項目を認めるときには,その臓器障害を認めることとする

治療プロトコール

【寛解導入療法(初期治療)】
ANCA関連血管炎の治療では、臓器症状、重症度に応じて治療を行う。 ここでは重症度別の寛解導入のための治療プロトコールを以下に示す。RPGNが発現した場合の治療法は別途述べる。
(1)重症例
  • ステロイドパルス療法(methylprednisolone 0.5~1.0 g/日)×3日間、あるいはプレドニゾロン(PSL )0.6~1.0 mg/kg/日(40~60 mg/日)経口を投与する。
  • 4週間以内にシクロホスファミド大量静注療法(IVCY) 0.5~0.75 g/m2または経口CY 0.5~2.0 mg/kg/日(50~100 mg/日)の投与を開始し、併用療法を行う。なお、腎機能障害(血清Cr≧1.8 mg/dL)時や75歳以上の高齢者では、IVCY、経口CYの投与量を75~50%に減量する。
  • ステロイドパルス療法後は上記のPSL経口投与量に準ずる。PSL 40~60 mg/日の初期投与量を1ヵ月以上続け、以後病状に応じて漸減する。
  • IVCYの投与間隔は、3~4週間とし、IVCYの総投与回数は3~6回とする。症例により12回まで可とする。なお、IVCY投与2週間後の白血球数が3,500/μL以上を保つように、投与量を調節する。
  • 経口CY投与は3~6ヵ月間とする。CYを服用できない症例ではアザチオプリン(AZA)を1.0~2.5 mg/kg/日(50~150 mg/日)投与する。投与期間は6ヵ月以上とする。
  • 上記治療期間は感染症リスクが高いので、トリメトプリム/スルファメトキサゾール(trimethoprim/sulfamethoxazole; ST)合剤2錠/日を週2日、または1錠/日を連日予防的に投与する。
(2)最重症例
  • 重症例と同様に、IVCY/経口CYとPSL治療を施行する。それとともに血漿交換を行う。血漿交換は、2.0~3.0 L×3日間を1クールとして施行する。血漿交換時には感染症リスクが高くなるので、ST合剤2錠/日を週2日または1錠/日を連日予防的に投与する。
(3)軽症例
  • PSL0.3~0.6 mg/kg/日(15~30 mg/日)を経口投与する。
  • 免疫抑制薬の経口CYまたはAZAは0.5~1.5 mg/kg/日(25~100 mg/日)を適宜併用する。
【寛解維持療法】
  • 寛解導入後は、PSL10~5mg/日で、再燃に注意して経過観察する。
  • 血管の内腔狭窄および血栓形成に関し、抗凝固療法、血管拡張剤、抗血小板剤を投与する。
  • 経口CY投与は投与開始6ヵ月以内に中止するのが好ましい。免疫抑制薬はAZAに変更して投与を継続する。
  • JMAAV試験で寛解が達成された42例の寛解維持療法の内訳を表6に示す。

寛解維持療法における薬剤の使い方

欧州のガイドラインで推奨されているグローバルスタンダードな寛解維持療法における免疫抑制薬とステロイドの使い方は以下のようなものである。
【免疫抑制薬の使い方】
  • 寛解維持療法に際して、少量のステロイド(PSL)にAZAあるいはMTXを併用する。
  • 寛解維持療法は12~18カ月継続する。しかし、合併症や再燃のリスクを考慮し、期間を適宜、延長・短縮する。
  • GPAおよびMPA患者を対象とした臨床試験でのAZAと MTXの投与量は以下のとおりである。
    AZA:2mg/kg/日
    MTX:0.3mg/kg/週あるいは15mg/週で開始し、その後2.5mgずつ増量(25mgまで)
【ステロイドの使い方】
  • 2007年BSR/BHPRガイドラインで推奨されているステロイド投与プロトコールは、PSLを1mg/kg/日から開始し、1週間ごとに0.75、0.5、0.4と減量し、以後漸減するプロトコールである(表7)。このプロトコールは免疫抑制薬併用が原則であり、ステロイド単独治療によるプロトコールを示すものではない。
【日本の現状】
  • 国内(JMAAV)において、上記のグローバルスタンダードを参考にして寛解維持療法を行った結果、表6の成績が得られた。
  • 寛解維持率は81%(34/42例)で、19%(8/42例)が再燃した。
  • 寛解維持療法中に認められた重篤なadverse events (AE)の主因はステロイドによるものと推定され、ステロイド投与量をいかに少なくするかが今後の主要課題のひとつと考えられる。
表6 病型別寛解維持療法の内訳
重症度 n PSL単独 +IVCY +AZA +MZR +TAC 寛解維持 再燃
重症/軽症
最重症例 1 0 1 0 0 0 1 0
重症例 20 14 1 4 1 0 17 1/2
全身型 3 0 0 3 0 0 2 1/0
肺腎型 3 3 0 0 0 0 3 0
RPGN 14 11 1 1 1 0 12 0/2
軽症例 21 17 2 1 0 1 16 1/4
腎限局型 3 3 0 0 0 0 2 0/1
肺限局型 6 4 1 0 0 1 2 1/2
その他型 12 10 1 1 0 0 12 0/1
総計 42 34 2/6
MZR:mizoribin,ミゾリビン、TAC: tacrolimus, タクロリムス
表7 免疫抑制薬併用時におけるステロイド減量法
治療開始からの期間(週) PSL(mg/kg/日) 体重60kgの場合(mg/日)
0 1 60
1 0.75 45
2 0.5 30
3 0.4 25
4 0.4 25
6 0.33 20
8 0.25 15
PSL(mg/日)
12 15 15
16 12.5 12.5
6ヵ月 10 10
12~15ヵ月 7.5 7.5
15~18ヵ月 5 5
page top